· 

澤水困 たくすいこん

●鴉枯木に鳴くの象

からすかれきになく

 卦名の困はクルシムと訓じ、口の中に木あるはその枝を伸ばすことができず苦しむ会意文字である。上卦の兌は口で、又鳴く象があり下卦の坎に飛鳥の象があり、又黒色枯木などの象もある。『物言えば唇寒し秋の風』で人間誰でも大変困窮している際に、弱みをみせまいと虚勢を張って言葉を飾り口舌(こうぜつ:口先だけの言葉)を以てその困苦を以てその困苦を脱しようとすれば一層困窮を増すことになるのであるが、それを鴉枯木になくの語をを以て表現したのである。秋は唯でさえ寂しきものを寒鴉(かんあ:冬のからす)が枯木にとまりカアカア鳴いてはいよいよ物の哀れを増すのである。『枯枝に烏とまりけり秋の暮』の句の中に此の卦の意と語句の意が含まれてある。

 

会意文字:二字以上の漢字の字形・意味を合わせて作られた漢字

 

●澤中潤いを脱す

たくちゅううるおいをだっす

 兌は地の凹(くぼ)めるところ、坎は水である。凹める處に貯めた水が脱漏した象で、そうなれば堤は干からびて潤いを失う故に稲は枯死(こし)することになるが、それは困憊(こんぱい)の極といい得るのである。