山の卦

山の卦 · 25日 5月 2022
 坎下艮上の卦である。下卦坎に渓水(けいすい:谷川の水)の象、上卦艮に巖山(がんざん:険しい岩の山)の象あり。巖山と渓水の自然風景として、渓の霧は上って山を覆い山の雲は下って渓(たに)を隠す。此の情景は即ち蒙昧の意になる。故に蒙と名付けたのである。又巖はイワオを訓じ石山をいう。険はケワシと訓じ、又元は巖険共に同意義に通用したが艮の卦にこの巖険の象がある。又雲煙というのは雲霧が烟(けむり)の如く立ち上る形容詞で即ち坎卦の象である。卦名の蒙はクラシと訓ずるが暗の字のクラシとは異なって、雲烟濛々(もうもう:煙が立ちこめるさま)としてとして一寸先も定かならねど、然し暗夜のクラサとは異なって、これは朧気(おぼろげ)ながら四囲(しい:まわり)の形状は観取し得られるクラサである。又此の卦の蒙は童蒙(どうもう:幼くて道理がわからないこと)の義であって、前の屯卦を赤子の出生とすれば、此の蒙卦は稍(やや:少し)成長した童蒙とする。少年には物を観取する能力はあっても事理を識別する能力はない。その事理に暗く分明でないのは即ち巖険雲烟の象と通ずる。その雲烟もやがて一度散消したならば、そこには麗しい自然美が展開されるであろうし―此の点が此の卦の判断上の眞穴である。眞勢中州も此の卦を以て、始めは朦朧として後には著明なる意といって巖険を覆える雲烟のやがて霧消する時期あることを説いているし、又蒙の難(かた)みは難(かた)むべからざるに艱(なや)む。これ蒙昧の甚だしき也と謂っている。
山の卦 · 18日 5月 2022
巽下艮上の卦である。巽は風、艮は山である故、下卦の風が上卦の山の草木を吹き壞(やぶ)る象から蠱と名付けたのである。蠱は壞(やぶ)るである又艮を門とし巽を賊とするから、門内に賊あるの象といったのである。此の卦は巽の長女、艮の少男を蠱惑(まどわす)する故に、その家は女より乱れて家産破壞する象とみる。即ち外敵は防ぎ得べきも内賊は防ぎ難きの意味である。此の蠱の字に就いては、序卦伝には『蠱は事なり』とある。即ち蠱は治と同義になる。そこで眞勢中洲は此の卦を説いて「其の事の蠱壞したるものを修治回復するのは事の最大なるものなり」といっている。敗戦日本の現在が即ちこれである。これが此の卦の常道である。一方、占噬的には、此の卦、蠱字は皿の中に三匹の虫あるところから、蛇と蛙と蛞蝓(なめくじ)の3つが互いに睨み合っている意と解し、門占者の家庭の人達が、丁度、貧(とん:むさぼり・必要以上に求める心)、瞋(じん:怒り・憎しみ・妬みの心)、痴(ち:おろかさ・愚痴・無知)の心の三毒のために悩むとみるのである。 ※眞勢中洲(ませ ちゅうしゅう):江戸時代中期-後期の易学者。新井白蛾(はくが)にまなび、大坂で占筮(せんぜい)を業とした。
山の卦 · 16日 5月 2022
 上卦の艮を門とし、下卦の離を美しとする。又賁とは飾る意である。門内美を競うとは、その家の中を飾って他家と美を競争することであるから、その妻女派手好きであるか又は主人が萃美奢佼を誇れど、内面は困難窮迫の意がある。それは此の卦の伏卦(ふっか:変爻した結果)は沢水困の卦であるからである。即ち此の卦の本意は質素倹約を説いているところにあるのである。
山の卦 · 15日 5月 2022
 消長卦である。四月純陽の卦乾から五月一陰生じて天風姤となり、六月天山遯→七月天地否→八月風地観→九月山地剥となり、次は純陰坤為地となる。即ち此の卦は陰漸(ようや)く長じて陽を剥落せむとする象でその有様を喩えて鼠倉廪を穿つといったのである。上卦の艮に鼠の象あり、下卦の坤に倉(穀藏)廪(米藏)の象がある。鼠が穀藏米藏に穴を穿(は)けた此の小動物が盗み食いする位の米穀など洵(まこと)に知れたものではあるけれど、然しそれが長い歳月にわたるならば全倉庫の米穀も遂に食いつくすであろう。それと同じで一陰下に生じた天風姤(旧五月)の気節は夏至で、その夏至から日脚は一日一日僅かづつ短くなってゆくのであるが、然しそれは暦の上のことであって、実際には人々は七八月の酷暑に苦しむで誰も此の日脚の短縮することなどに気は止めないのであるが、やがて風に木の葉の散り落ちる旧九月(剥卦)の秋の訪れに遭って、さすがに夜の長くなったのに気付き、はじめて日脚の短きに驚くのである。彖伝(たんでん)には『小人長ずるなり。順にして而して之に止まる。象を観ずればなり。君子は消息盈(えい)虚を尚う。天行なり』とあって、これは小人長じて君子を剥盡(じん)せんとする際、故に君子は順にして止まらば(下卦坤は順・上卦艮は止)その身を全うすることができるであろうというのである。
山の卦 · 13日 5月 2022
 乾下艮上の卦である。艮は巌の象、乾には金の象がある。卦名の大畜とは畜止(ちくし)又は蕰畜の義であって、艮の制止を以て剛健な乾の鋭進を止むる象である。彖伝(たんでん)に『剛健にして而(しか)して能(よ)く止む』といってある。君子たるものは乾の剛健と艮の篤実とを併せ有して、その道に止まりその徳を蕰畜して時機の到るを待ち妄動(もうどう:考えもなくむやみに行動すること。分別を欠いた行動。)せざるは、これ大畜であって、それは恰(あたか)も金鉱が巌石の中に埋って猥りに世に顕れないと同一であるとの真意である。
山の卦 · 12日 5月 2022
此の卦の卦名の頤はヲトガヒと訓じ、又ヤシナウと訓じて口の象がある。口の象では腮(あご)は顔面にくっついて止まり下腮は動いて食物を摂るのであるが、此の卦の上卦の艮は止まるで、下卦の震は動くであって、第四爻第五爻の陰爻を上歯とし、第二爻第三爻の陰爻を下歯とするから、これ即ち頤の象である。又此の卦を全体から見て上下に各々陽爻一つあって中爻は皆陰であるから即ち外は充実していて内は空虚である。これは丁度口の開いた画像故に頤と名付けたのである。元来口は飲食と言語の関門であって、飲食は口から入り、言語は口から出る。これは生を養い身を保つ肝要な部位である。。それ故に日常よくよく戒め慎まなければ禍害これより生ずるのであるから、彖伝(たんでん)に『山下雷あるは頤なり、君子以て言語を慎み、飲食を節す』といい、又昔から諺にも『禍は口より出で病は口より入る』といわれているのである。 此の卦は、下卦の震に壯士の象あり、又怒るの意あり、上卦の艮に剣の象がある。そして上卦の艮は震をさかさまにしたものであるから、これ両震相闘うの象である。この象から壯士剣を執るという語をかけたのである。
山の卦 · 02日 5月 2022
 卦名の損はヘラスと訓じ、下卦を損して上卦を益するのである。上卦の艮は陽卦で山の象、下卦の兌陰卦で澤の象がある。又陽を尊び陰を賤(いや)しむのは易卦の通例である。山高く貴く澤低く賎し、その貴きものは上に在り、賎しきは下にある。これ貴賎位を正すである。
山の卦 · 24日 4月 2022
重艮の卦である。下卦の艮は、山とし、上卦の艮を門とする。又、艮に止まる意あり。山上に門を設けて往来の人馬を止めるのは関所である。此の卦は山地剥(さんちはく)の卦の三爻が陽爻になった形で、剥を大いなる門とし、その五陰を門扉とし三爻の陽爻を貫木(かんぬき)とする。即ち山上の関所の門扉を鎖(とざ)した象である。