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山天大畜 さんてんたいちく

●金巌中に在るの象

きんがんちゅうにある

 乾下艮上の卦である。艮は巌の象、乾には金の象がある。卦名の大畜とは畜止(ちくし)又は畜の義であって、艮の制止を以て剛健な乾の鋭進を止むる象である。彖伝(たんでん)に『剛健にして而(しか)して能(よ)く止む』といってある。君子たるものは乾の剛健と艮の篤実とを併せ有して、その道に止まりその徳を畜して時機の到るを待ち妄動(もうどう:考えもなくむやみに行動すること。分別を欠いた行動。)せざるは、これ大畜であって、それは恰(あたか)も金鉱が巌石の中に埋って猥りに世に顕れないと同一であるとの真意である。

●浅水舟をやるの意

せんすいふねをやる

  浅水とは浅い河のことで、そういう河を舟を漕いで行くのは中々骨の折れることである。浅くても多少水量はあるから舟は浮かべられるが、何分水量が浅いから、船底が泥砂にかまれて舟は中々進まないがそれでも例え少しづつでも進み得るのである。前述の如く此の卦は、乾の剛健を以て鋭進せんとするのを、艮がこれを制止する象故、大畜というのであるが、然し此の大畜は休止ではないから、乾の剛健と艮の篤実とを以てよく勉めるときは漸次事の成就すべきを示している。それ故、彖伝(たんでん)に『大川を渉るに利し』といってあるのである。けれどもそれは下卦の剛健を以て進もうとするのを、上卦の艮に止められること故に、その大川を渉る努力は容易ではない。即ちこれが浅水舟をやるの語句をかけた真意である。