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山雷頤 さんらいい

●壯士剣を執るの象

そうしけんをとる

此の卦の卦名の頤はヲトガヒと訓じ、又ヤシナウと訓じて口の象がある。口の象では腮(あご)は顔面にくっついて止まり下腮は動いて食物を摂るのであるが、此の卦の上卦の艮は止まるで、下卦の震は動くであって、第四爻第五爻の陰爻を上歯とし、第二爻第三爻の陰爻を下歯とするから、これ即ち頤の象である。又此の卦を全体から見て上下に各々陽爻一つあって中爻は皆陰であるから即ち外は充実していて内は空虚である。これは丁度口の開いた画像故に頤と名付けたのである。元来口は飲食と言語の関門であって、飲食は口から入り、言語は口から出る。これは生を養い身を保つ肝要な部位である。。それ故に日常よくよく戒め慎まなければ禍害これより生ずるのであるから、彖伝(たんでん)に『山下雷あるは頤なり、君子以て言語を慎み、飲食を節す』といい、又昔から諺にも『禍は口より出で病は口より入る』といわれているのである。

 

此の卦は、下卦の震に壯士の象あり、又怒るの意あり、上卦の艮に剣の象がある。そして上卦の艮は震をさかさまにしたものであるから、これ両震相闘うの象である。この象から壯士剣を執るという語をかけたのである。

●匣中物を秘するの意

こうちゅうものをひする

 此の卦の画像は[ ]であって、恰(あたか)も匣(はこ)に蓋をしたような形であるし、又初爻上爻の二陽が中爻の四陰を包み藏(かく)する象で、その外は実、内は虚なるところは恰も智者が謀を胸中に秘し包む如きところから匣中物を秘すの語をかけたのであって、此の語句の中に、彖辞の『目から口実を求む』や大象の『言語を慎む』の意を含ませているのである。

 

 

※大象:『易経』の用語。卦を説明する象伝の一つ。一爻を説明するものを小象、一卦を説明するものを大象という。