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澤天夬 たくてんかい

●蛟龍天に登るの象

こうりゅうてんにのぼる

 蛟龍とはミヅチといって龍の一種で江河などに潜み蛇に似て四足あり。その大なるものは数丈もあってその卵は一二石(じゅうにごく:「石」は大きさを表す単位)のカメほどもあって、よく人を呑むという。兌を水潤の地とし、乾に龍の象がある。兌の下にある乾故、蛟龍といったのである。此の夬の卦は、元々地雷復から地沢臨となり地天泰となり雷天大壮となり澤天夬となったのであって、すなわち、陽爻の漸伸するのを喩えて天に登るといったのである。

●羝羊觸るるを喜ぶの意

ていようふるるをよろこぶ

羝羊は牡羊(おひつじ)のことである。牡羊は剛壮であって、その角を以て物に觸れるのを喜ぶ性質を有するのであるが、大壮卦の上爻の辞に『羝羊藩に觸れ退き能わず、進む能わず』とある。然るに、今、澤天夬となると大壮の一陽がなお増したのである。乾の剛健を以て進むのを兌の喜ぶのは、あたかも羝羊が藩にその角を觸れて喜ぶ如きであるけれど、遂にはその角を疲らせ苦しむ事があると同じく餘(あまり)に剛進しすぎて遂には失敗困難に陥るであろうことを戒めたのである。