· 

天地否 てんちひ

●月霧裏に隠れるの象

つきむりにかくれる

 上卦乾の天気は上昇し、下卦坤の地気は下降し、陰陽の二気相交わらず萬物否塞(ひそく:閉じふさがること)し不通となる。此の卦の互卦に風山漸(二三四五爻による)あり巽は残月とし艮を山とす。又乾を天とし坤を霧とす。即ち山上の月中天に懸かれど雲霧のために覆われて其の光を顕し得ざる象である。月が雲霧に覆われれば暗いことは暗いが、然しそれは闇夜の暗いのとは異なって、月光を覆っている。その雲霧さへ拂(はら)い除けば再び美しい月光を見ることができる。此の否卦を断するには、此の心で扱うべきである。此の卦は『消息卦』であって、天風姤→天山遯→天地否となった。そして彖伝に『内は小人にして外は君子なり、小人の道長じ、君子の道消すなり』とあって、上卦の乾は君子、下卦の坤は小人とする。即ち上下否塞する故否と名付けたのである。内に居って権勢を振う小人を除き、外にある君子を用いたなら、否塞せる天下の政治も再び明るくなることを雲霧が月光を覆いかくして暗くなっている現象に託して説いたのである。

●寒鶯春を待つの意

かんのうはるをまつ

天地否上九の辞に曰く『否を傾く、先に否にして後に喜ぶ』とあって、此の卦は物事初めは否塞すれど後には通達する意がある。それを寒鶯が谷間にあってやがて訪れる春を待つのになぞらえたのである。