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天山遯 てんざんとん

●貴人山に隠れるの象

きじんやまにかくれる

 此の卦艮下乾上である。遯はノガレルと訓ずる。この卦は消長卦である。即ち旧四月乾の純陽卦のところへ一陰下に生じて五月姤となり、なお一陰生じて六月天山遯となる。此の六月は水無月で夏の土用がありこれを過ぎると七月の天地否となる。此の旧七月は立秋の節であって陽気がいよいよ消滅し陰気がますます増長する候である。此の天地否の卦となると陰陽阻隔して相交わらざることになる。人事の場合では、陽を君子とし陰を小人とするが此の卦は一陰下に生じてそれが段々増長して今第二爻を侵さんとする。此のままに放置するときはその陰は第三爻を侵すことになる。斯(か)くなれば(このようになれば)、それは天地否の卦になるが否となればそれは小人の道長じ君子の道消する故、そうならない前に即ち此の遯卦の場合に當(あた)って善処せねばならないのである。此の卦、上卦の乾を貴人とし下卦の艮を山とする。即ち貴人山に隠れる象である。天風姤の一陰長じて此の遯となったのであるからやがて天地否とならないうちにその陰-小人の邪害に遠ざかってその身を全うするのが此の場合に処する最も賢明な方法なのである。

●井を穿(うが)って泉なしの意

せいをうがっていずみなし

井戸を掘ったが湧き出る水がない。即ち労して功なしとの意である。前述の如く此の遯卦は陰漸(ようや)く長じ陽いよく退く、即ち小人の勢い漸く盛んならんとする故に、君子はその迫害を避け遯(の)がれるというのが此の遯卦の本義であるが、然し現実生活に於いては君子は少なく小人が多い。殊に求占者には一層小人が多い見て差し支えない。そこで占断上ではその者の望み求める事は遯れ去ると観られるから、これ即ち徒労功なし井戸を掘って泉なしである。