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天火同人 てんかどうじん

●闇夜燈を揚ぐるの象

あんやともしびをあぐる

 乾上離下の卦である。乾は天なり離は火であり太陽である。離は又麗くの象がある。即ち太陽が地平線上に昇って天に麗くときは洽(あま)ねく萬物を照らす故に地上の萬物皆之を仰ぎ敬(けい)ぜざるものはない。依って同人と名付けたのである。上卦の乾を闇夜とし、下卦の離を燈とする。闇夜に燈を揚げその光四方を照らすときは、四圍(しい)の人皆これを仰ぎ見ざるはない。それは丁度太陽が地平線上に昇ってその光輝を放つときは、地上の萬物生きとし生けるもの皆これを仰ぎ敬する如くである。依って闇夜に燈を揚げるといったのである。

●管鮑金を分かつの意

かんぽうきんをわかつ

これは管仲(かんちゅう)と鮑叔(ほうしゅく)との世にも美しい友情の故事をひいて此の卦の働きを説いたのであって道義地を拂(はら)い同胞相食む(あいはむ:共食い。食い合い)現在日本の世相故に此處(ここら)に引用された故事の美しきに胸を打たれるのである。同人とは親しむという義であるが、泰卦否卦の場合と同じく、此の卦も亦その人和を欠いている場合に出づることが多い。即ち家庭上の紛糾、或いは人との反目争闘、物質上の争いなどの悩みがある人に多く此の卦を得ることを銘ずべきである。

管鮑の交わりの故事について:紀元前7世紀ごろ、斉せいという国に、才能はあるものの失敗も多かった、管仲という男がいました。彼は若い頃からずっと、鮑叔という男と親しく付き合っていました。この鮑叔は、管仲に傑出した才能があることを見抜いており、このために管仲が不義(一緒に商売をしたときに自分の方が多く金を受け取ったり、失敗したりもした)を働いてもこれを見過ごし、怒ることも、交際を断つこともありませんでした。やがて敵味方に分かれ、管仲が捕えられたときに、鮑叔は自分の出世話を断って捕えている管仲を大臣にするよう推薦し、その国は安定したという美しい友情の話。