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地火明夷 ちかめいい

●嚢中物有の象

のうちゅうものある

 卦名の明夷は明らかなるもの夷(やぶ)るの意である。火地晋の卦では離の日が坤の地の上にあるから是れ旭日昇天の象であるが、此の明夷となると離の日、坤の地下に在るから、これ太陽が地平線下に没してその光輝を放つ能わざるの象である。そして嚢中物有りとは坤に布帛(ふはく:織物)又嚢(ふくろ)の象があって初爻の一陽は、嚢の底で第3爻の一陽はその嚢の中の物である。又互体の坎(二、三、四爻で)には隠匿の意があるから、これで嚢中物有の象である。嚢中に何か物ある場合、その表面から探って嚢中に何かがあることは知り得るけれど、それが何であるかは嚢の中を見なければ判らない。此の明夷は離日坤地の下に在るからクライのであるが、然し、それは暗夜ではなくて薄暮である。暗夜というのは物のアヤメも判らぬ程であるが、薄暮はそれとは異なって何物かが其處に在ることは察しできるけれど、それが何であるかがはっきり判らないので、これ嚢中の物を表面から探るのと以ているので此の語句をかけたのである。

●雨後苔色の意

うごたいしょく

 旱天(かんてん:久しく降雨がなく日照りが続くこと)が続くときは樹の陰や石上の苔はその色が褪せて枯死したようになるが、そこへ一度雨が降ると、その潤いを得て生色を取り戻す。此の地火明夷の卦は上卦の坤の闇君のために下卦離の明智は賢者がその徳をやぶられるとき故に賢者は其の明を晦(くら)まして身心を全うして、やがて火地晋となる時機を待つべき意を雨後の苔色の鮮やかな時を待つのと同一といったのである。