· 

沢山咸 たくさんかん

●山沢気を通ずるの象

さんたくきをつうずる

卦名の咸は感であって、即ち感動することである。こと語句は説卦伝に『天地位を定め、山沢気を通ず』とあるのを假借(かしゃく:音はあるが当てるべき漢字のない語に対して、同音の既成の漢字を意味に関係なく転用するもの)したのである。兌の沢気は上昇し艮の山気は下降してここに山沢気を通ずである。これは地天泰の卦に於いて地気は上昇し天気は下降して陰陽相和するを示すのと同意義である。此の卦は易経下経の初めであって、男女交合夫婦人倫の道を示したものであって、兌の少女と艮の少男相感ずるを示したのである。艮の少男が兌の少女の下にいるのが此の卦であるが、これは男が女に下る象故一寸不純であり常道ではないように見えるけれど、然し決してそうではないのであって、これは艮の少男は内より唱えて兌の少女外より和する象である。彖伝(たんでん)に『二気漢應して以て相與(よ)す 止まって而(しか)して説(よろこ)ぶ 男女に下る 是を以て享(う)ける 貞に利し 女を取るに吉なり』とあるが婚姻の場合、凡(すべ)て男子側は下手に出て辞を卑しく禮(れい:礼)を厚くして新婦を迎えるのが常例であるし、又天地自然の理でもある。これ即ち此の卦に於いて兌の少女上におり、少男下に居る所以(ゆえん)である。

 

※説卦伝:せっかでん。「易経」の解説として孔子が書いたとされる十翼の一つ。

●鶯吟じ鳳舞うの意

うぐいすぎんじほうまう

 彖伝に『その感ずる所を観て天地万物の情見るみるべし』とあるが、咸は感動であり無心にして相感ずることである。即ち少男少女間の恋情は純真なものであって、その純真さに天地も感和する。天地自然の咸和によって萬物皆和平、そして鶯は心のままに吟じ、鳳も亦心のままに天を飛び回ると天地自然の咸和を示した語句である。