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澤風大過 たくふうたいか

●常山の蛇の如きの象

じょうざんのへびのごとき

 卦名の大過は大いに過ぎる又大いに過(あやま)ってである。初爻上爻の二陰爻が外にあって二、三、四、五爻の四陰爻が内にある。これが此の卦の爻象であるが、その内とは主人であって、外とは客人であるし、又陽は強くして陰は弱い。即ち主人たる陽が客人たる陰の柔弱より大いに強すぎる象故、此の卦を大過と名付けたのである。

 常山とは、支那河北省と山西省に跨る山で即ち五嶽の一つである恒山(こうざん)である。その高峰は三千三百尺もの高さを有し、山脈は蝿蜒二十里に亘る支那北方の高山である。此の山に棲息する蛇は両頭の蛇で、その首を打てばその尾で噛みつくし、その尾を打てばその首で噛み、その胴を打てば首と尾で噛むのである。此の卦、上卦の兌は口で下卦の巽は倒兌である。即ち首尾に口があって共に噛むことができるし、中間は皆陽であって剛強であるが、常山の蛇も亦首尾に口があって此の卦の象と似ている故に常山の蛇の如しといったのである。

 

※五嶽(ごがく):中国で古来、国の鎮めとして崇拝された五つの霊山。五行思想の影響によるもの。泰山(東岳・山東省)、華山(西岳・陝西省)、衡山(南岳・湖南省)、恒山(北岳・山西省)、嵩山(中岳・河南省)をいう。

●馬を花街に走らすの意

うまをはなまちにはしらす

 花街とは繁華街のことであって、人の往来のはげしい繁華な街路をよい馬に乗って揚々として過ぎ行くのは愉快なものであり亦得意さも想うべしであるが、然し一度タヅナ捌きを誤って馬が狂い出したなら行人(こうじん)を傷つけ自分も亦墜落することになる。それ故に斯(か)かる繁華な街路に馬を乗り行くには充分の注意を要するのであってよく注意して人をも傷つけず自己も安全であるならば、その肥馬(ひば)に乗って行く姿は行人の羨望を得るには充分であるとの意である。