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火雷噬嗑 からいぜいごう

●頤中物有るの象

いちゅうものある

 山雷頤の卦の中に第四爻に一陽あり、恰も物を口中に入れて噛み砕く象である。元来、山雷頤の卦は口を開いた象である。即ち上卦の艮を上顎とし下卦の震を下顎とする。上顎は止まって動かず=艮の象、下顎は動いて物を食す=震の象、依って頤は口の象となる。又上下の二陽爻は唇であって、中爻の四陰は歯である。然るに噬嗑は、その山雷頤の中に一陽爻あって、これ頤中に物のある象で、又噬嗑はカミアワズと訓ずる。又彖伝(たんでん)に『頤中物有るは噬嗑いう』とあるので、その語を引用して頤中に物有るの象という語句をかけたのである。

●夫婦閨に怒るの意

ふうふねやにいかる

 此の卦は夫婦不和合家庭紛糾の意がある。それは離の中女は上卦にあって女権を振い、下に居る震の長男は怒って之に迫ろうとする象であるからである。何故家庭が紛糾するかというと、此の卦に於いて第四爻の一陽は又互体坎(第三、四、五爻)の主爻であって、坎を奸佞邪智(かんねいじゃち:心がひねくれて、ずるがしこく立ち回ること)とするからその主爻である故に此の一陽爻奸佞で、その中間を隔てるので、その為に争いの起こる意があるのである。そこで此の佞邪の者を除けば、又元の山雷頤となって円満に治まることができる。家庭争議は大抵の場合、主婦が柔順でなく家庭の主権(離の主爻)を振りかざし、夫の行動をあれこれ指図がましく振舞うことに原因する。その場合、夫はカラ威張りして主婦を押さえ付けようとするが、(下卦震の象)、その婦は、夫の秘密などを察知して、それを言い立て、そこでますます争いが激しくなる。そこで誰か仲裁者が現れて双方をなだめ、ようやく和解せしめるものである。此の卦は以上の意よりして、その事柄によっては裁判や警察の厄介にならずとも、理解に富んだ人の裁断を受けてはじめて事の決する場合もあるのである。