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地山謙 ちざんけん

●山に登って平安の象

やまにのぼってへいあん

 此の卦は謙譲の徳を訓(おし)えた卦である。上卦は坤の平地であり下卦は艮の山である。即ち山の高きを以て坤地の低下にある象であって、所謂(いわゆる)、能ある鷹は爪をかくすの語の如く、謙譲の徳の尊い境地を示したのである。彖伝に曰く『地道は卑にして而して上行す』とあるが、これは坤の地が艮の山の上にあるを謂(い)ったのであり、又坤に平安の象あり又衆多(しゅうた)とするから多数の人が山に登る象である。多数の人が山に登るとなると、お互いに先を争って自分だけよければ人はどうでもよいとなっては、道が乱れて危険であるが、互いに謙遜して譲り合うならば、なんの危険なく至って平安であると謙卦の真意を示したのである。

●物を稱って平らかに施すの意

ものをはかってたいらかにほどこす

上象伝に曰く『地中に山あるは謙。君子以て多きを褒め、寡(すくな)きを益し物を稱(はか)って施しを平かにす』とある。此の辞を採って此の語句をかけたのである。此の卦、艮山の高きを以て卑しき坤地の下にある。此の謙卦の意から功績あるものも、その名誉を部下とともに分かち、或いは山の如き財宝も坤地の卑しきもの分け與(あた)えて、よく大小軽重を稱って恩恵を施したならば『勞謙(ろうけん)の君子は萬民服するなり』といって労謙(ろうけん:労して誇らず、さしひかえる)するところの君子も終わりを完することができるとの意である。