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火天大有 かてんたいゆう

●窓を穿って明を開くの象

まどをうがってめいをひらく

離の太陽を上にし、乾の天が下にある。太陽中天に昇れる象であり、此の大有は太陽中天に輝く象である。彖伝に『柔尊位を得 大中にして而して上下之に應するを大有という』とあるが、之によって大有と名付けたのである。即ち第五爻一陰が君位に在って他の五陽之に隨(したが)う象で、これ有(たも)つことの大いなる故である。此の卦の六爻全体を以て壁の象とし、離を窓とし明とする。そして、此の卦は日が天上に在って照り亘(わた)る義であって、即ち明君(めいくん:賢明な君主)仁政(じんせい:恵み深く、思いやりのある政治)を施しておおいに亨(とお)るの時である。然し乍(なが)ら、第五爻の君不正に居って(第五爻陰爻故)自らを卑しくして賢人に下り政を行わしむる意があるので、折角の君徳も天下に及ぶこと狭く、それは恰(あたか)も窓から明の漏れるに似ている故に、窓を穿って明を開くといったのである。猶(なお)、重ねていうならば、此の卦五爻の一陰が君位に居るが陰柔(いんじゅう:うわべは柔順で、内心は邪悪であること)で、他の五つの陽爻は皆剛健(ごうけん:心身が強くたくましいこと)である。即ち君位は陽徳なく陰柔で剛健な臣下のためにやっと安きを得る象であるから、上卦の離も充分にその明を発揮することを得ず。そして五爻の一陰が高い處(ところ)に在って離卦の主爻となり、他は皆陽爻であるので恰も高い處に窓を開けた象とみたのである。

●深谷花発くの意

しんこくはなひらく

 上卦の離を花とし、互体の兌を谷とする。前にいった如く此の卦五爻の一陰が君の位に居るが柔弱で君に権威なく臣下に権あり剛健な五陽の補佐によってようやく身を保つことを得る卦であるから、此の君主の柔弱を花に喩え、その花も深谷に咲き出でた花として賞する人も稀なるに託して、その君主の威権(いけん:相手にこちらの意思を押しつけて従わせる力)の弱きを喩えたのである。