· 

水地比 すいちひ

衆星北に拱うの象

しゅうせいきたにむかう

 坤下坎上の卦である。坎水坤地の上を流れて隔てなきところから北と名付けたのである。即ち水地上を行くの象である。又彖伝に「比は輔くるなり。下順従するなり。」とあって、此の卦全体を観ると、五爻の一陽が君位に在って他の五陰に親しみ應じ、五陰も亦五爻の一陽に順従して之を輔(たす)ける故に比と名付けたのであるが、その象は丁度衆星が北極星に拱うという語句をかけたのである。それは上卦の坎は方位は北であり、その主爻である陽爻は五爻の君位に居る故に之を北極星に見立てたのである。支那古代の天文学によると、天体の北方に紫微垣(しびえん)という星座があって、その星座の中央を紫微宮と名付け其の處に天皇太帝(てんこうたいてい)という星が居て、此の星を中心として衆星が旋(めぐ)ると説明しているが、それは即ち北極星のことである。論語の為政編に曰う「北辰の其の所に居て衆星の之に拱ふが如し」とあるのが即ちこのことである。拱の字はムカウと訓じ手指をコマヌクこと(ある方向に向かう)で支那古代の貴人に対する時の礼儀の仕方である。

●和楽隔てなきの意

わらくへだてなき

 彖伝に曰く地上に水有るは比。先生以て萬國を建て諸侯を親しむと五爻の一陽君の位に在って他の五陰に親しみ應じ、五陰も亦五爻の一陽に順従してこれを輔けるのが此の卦であるから、それは君民和楽して、その間に何等の隔てなく、下の人民は其の君に尊従し、上の君主は、其の民を愛するから従って君恩水の平地を流れる如く民に及ぶとの意である。此の卦は地水師の卦の裏である。師は戦争の卦故憂患(ゆうかん:心配して心をいためること)多き卦であり、此の比の卦は戦に勝って万民歓び楽しむ卦であるから、之亦上下和楽隔てなしである。